お江戸のベストセラー

悪七変目あくしちへんめ景清かげきよ

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悪七変目景清 01

消えぬたよりも風なれば
消えぬたよりも風なれば
露の身いかになりぬらん

さて、寿永三年三月下旬の屋島の戦さに敗れてから、平家の侍、悪七あくしち兵衛びょうえ景清かげきよは世を忍んで頼朝公をつけ狙っていたが、やがて頼朝公の情にうたれて観念し、「源家の繁栄を見るのも口惜しい…」と自ら両眼をくり出して盲目となり、宮崎に引っ込み日向ひゅうが勾当こうとう(盲人の官職)となる──と書いたところは、どんな真面目な作だと思うだろうが──次をあけてみな

景清「こうなってみれば、また、なかなか味気ある世の中じゃナァ。」

注釈

消えぬたよりも風なれば~
謡曲『景清』の冒頭。景清の娘、人丸が日向に下った父を想う。
「かすかな風の便りが聞こえてきても、その風に吹き飛ばされる露のようにはかない父の身、はたしてどうしているかしら。」
悪七兵衛景清
平景清。平家の侍大将。
江戸のお話では、景清は平家滅亡後も頼朝をしつこくつけ狙う。