お江戸のベストセラー

方言修行むだしゅぎょう 金草鞋かねのわらじ江之島鎌倉廻えのしまかまくらめぐり

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雪の下・段蔓

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ゆきした段葛だんかずら

鎌倉は相州鎌倉群にあり、鎌倉の里ともいう。
八幡宮の前には雪ノ下という町があって茶屋や旅籠はたごが多い。鎌倉見物の人は、ここで案内を雇うとよい。
段葛だんかずらと呼ばれる参道には一の鳥居があり、ここから浜辺まで二の鳥居、三の鳥居と続く。参道の途中には琵琶橋が架かり、そのあたりに足利あしかが尊氏たかうじの屋敷跡、本覚寺、妙隆寺、親王屋敷跡がある。

狂歌

出来秋の いねをかるてふ かまくらや
これほうねんの ゆきの下町

出来秋の稲を刈るてふ鎌倉や
これ豊年の雪の下町

旅人Ⓐ「さてさて、これは困った。わしは、さっきの茶屋へ大事な水筒すいづつを忘れてきたらしい。取ってくるには、また一里ばかりも戻らねばならず、人をたのんで取りにやれば金がかかる。はて、困った。思いきって人を頼もうか、あるいはおれが取ってこようか。どうしたものだろう。」

旅人Ⓑ「もしもし、おまえが忘れたと言うのは、この水筒のことかえ。これはわたしの水筒だから、今さっき、わたしが戻って取ってまいりました。」

旅人Ⓐ「そうか、おまえの水筒だったか。それでわたしは落ち着いた。それが、ひょっとしたらわたしの水筒かと思って、さっきから気をもんでいたが、おまえのでよかった、よかった。」

旅人Ⓑ「これはおかしや。おまえのでよかったもあつかましい。おまえは下戸で酒は呑まぬのに、どうしてこの水筒を持ちなさる。」

旅人Ⓐ「それそれ、よく考えてみればわしは酒が嫌いだったのに、それをうっかり忘れておりました。
昨夜の宿でも、夜にフンドシを干したのをすっかり忘れて、朝、出がけに気がついたのであわててたもとへ入れてきましたが、よくよく見れば自分のフンドシはもう締めている。
『これはしまった。これは他人のだったか、粗相な事をした。』
と思っていたら、後から追手の者が来て、
『くせもの、待て! お家の重宝、源氏の白旗を奪い取りたるくせもの、早々、こっちへ渡せ!』
と言い

※このページには、最後の「と言い」に続く文がなく話のオチが抜けています。

注釈

足利尊氏の屋敷跡
『新編鎌倉志』によると現在の鎌倉駅北側あたり。江戸時代には、すでに田畑になっていた。