お江戸のベストセラー

方言修行むだしゅぎょう 金草鞋かねのわらじ江之島鎌倉廻えのしまかまくらめぐり

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荏之嶋弁才天

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島弁財天しまべんざいてん

金亀山きんきさん江ノ島弁財天は、上之宮と下之宮、それに本宮の御旅所おたびしょがあり、どの社もその華麗さは目を見はるばかり。宿坊の岩本院は、上之坊と下之坊がある。岩屋の洞穴の中に弁天さまをお祀りしていて、ここを本宮とする。その景観の素晴らしさは並ぶものがない。
名物は、いろいろな貝細工とアワビの粕漬。
春には江戸からの参詣も多く訪れ、その騒がしく賑わうさまは、まさに弁天さまのご利益のおかげといえる。
毎年四月の巳の日、巳の刻に、岩屋本宮から山上の御旅所まで音楽を奏で祭礼を催す。

狂歌

むらさきの かすみにあけの たまがきや
ごくさいしきの えのしまのけい

紫の霞に朱の玉垣や
極彩色の絵(江)の島の景

旅人Ⓐ「弁天さまといえば、昔の清盛という人は厳島の弁天さまに惚れたらしいが、おいらも、どうか弁天さまを女房にほしいものだ。」

旅人Ⓑ「とんだことを言う。きさまと清盛と同じになるものか。清盛は、仏も妾にした人だから当然のことだ。」

旅人Ⓐ「いや…そう言うな。俺も仏を妾にしたことがあった。」

旅人Ⓑ「なに、きさまのいう仏とは、いつぞや、きさまの家に居候していた比丘尼びくにばばあのことだろう。
まあ、世間にはいろんな夫婦がいる。おらが隣のわれ鍋屋の亭主がとじぶたを女房にしているのは似合いだが、その向こうのゲタ屋の女房は焼きミソ。それに、裏道の提灯屋の亭主は釣鐘を女房に持っている。」

旅人Ⓐ「コレコレ、われ鍋屋のとじ蓋はよし。ゲタ屋の焼きミソというのは、あのかかしゅは、やきもちやきということだからまだわかるが、提灯屋の女房を釣鐘というのは、どうしたわけだ?」

旅人Ⓑ「いや…あの女房のあだ名を釣鐘というのは、ご亭主が突くたびに、いつも、かんかんとうなるそうだから、それで釣鐘といいます。」

注釈

御旅所
神社のご祭神が一時的に本宮を離れとどまるところ。祭礼のときに、お神輿などが休むところでもある。
厳島の弁天
安芸の宮島、厳島神社の宗像三女神。江戸時代までは弁才天と習合していて、平清盛が厚く信仰した。
仏も妾にした
平清盛は、白拍子(歌舞を演じる遊女)の仏御前を寵愛した。
比丘尼
尼の姿で売色した私娼。