鬼の茨木童子は借りてきた千手の御手を付けてみたが、スベスベした手ではサマにならんと、神田駿河台の人形師・与吉に頼んで剛毛を生やしてもらう。
与吉
「ちょうど猪の毛を切らしているので鹿の毛を使います。猪の毛なら愛宕山へ行くのもいいですが、鹿の毛なので春日山へおいでなさい。」
与吉の女房
「茨木さんじゃ、気がない、気がないよ。」
「ここだけの話ですが、わたくしの妻などは、今ではモジャモジャと生えました。」
「浅間山の筋毛灰が積もったんじゃないのか。」
薩摩守忠度は喜々として千手の御手を借りに行ったが、ついうっかり斬られたのとは逆の左手を借りて来てしまった。付けると両方とも左手だ!
「さざなみや~」
とりあえず得意の歌を詠んでみたが、左右逆の文字になってしまい困り果てる。右手に替えてもらおうと使いを出したが、すでにぜんぶ貸し出し中とのこと。ヤケになって左の御手で書きなぐっていたが、とうとう観念して今は叶わじと念仏を唱えだす。
「これじゃカッコ悪い、よみ人知らずにしておこう。それにしても、六弥太めに斬られた腕はもうしなびたかしらん。」
をげかたしのこてれくき行