お江戸のベストセラー

大悲千禄本だいひのせんろくほん

2

大悲千禄本 02

  • 千手の御手 貸し料
  • ちょっと貸し 三十二文
  • 一昼夜    銀三匁
  • 一ケ月    金二両
  • 一年貸切り  金十両
    • 千手の御手を使っての千手観音のおつぶしは、おやめください
    • 下半身に突っ込んでのおにぎり結び、ならびに指人形五人組は、おやめください
    • 心中で使用した指の足りない手は、返却をお断りします
  • 以上
  •  月 日  十七屋講中
  • 手形

千手観音が御手を貸し出すと聞いて、手が欲しくてたまらないヤツらがぞくぞくと押し寄せてきた。

手が欲しいヤツら
薩摩守忠度

一の谷の戦いで右腕を斬られた平家の侍大将、薩摩守さつまのかみ忠度ただのり
「拙者のことは、何も聞かずに "借り人知らず" と書いておいてくだされ。」

茨木童子

渡辺綱わたなべのつなに片手を斬り落とされた鬼の茨木いばらき童子どうじ

捕手の人形

人形芝居で、端役なので手を付けてもらえない捕手とりての人形。

手のない女郎

手のない(客あしらいが未熟な)女郎。

てんぼう政宗

てんぼう政宗

字の書けないヤツ

字の書けないヤツ。

三味線弾きの手習い

三味線弾きの手習い。

千手の御手が、まるでたくあん漬けのダイコンを干すように吊るしてある。

千手観音

千手観音
「しなびて落ちたは誰にやろう、にやろう、いとしいもんにやりまんしょ♪」

千兵衛

千兵衛
「手相のよい手は、一割増しになります。」

歩けない男

「もし、お足のあまりがありましたら、お貸しくだされ。」

注釈

千手観音
シラミの異称。
おにぎり結び
男が自分の玉を握ること。
指人形五人組
男の自慰(女は二人組)。
心中
相愛の男女がその証しとして相手に髪や爪などを切って渡すこと。指を切る事もあったが多くは細工物を使った。もっとも過激な心中は、お互いの命を捧げ合う。
十七屋講中
月を信仰する「月待ち講」で、千手観音をおまつりする「十七夜講」と「七屋(質屋)」をかける。
薩摩守忠度
平忠度。歌人として名高い。一の谷の戦いで片腕を斬られ最後を遂げた。(『平家物語』巻第九「忠度最期」)
借り人知らず
平忠度の歌の師匠である藤原俊成が『千載和歌集』を撰すときに、朝敵となってしまった忠度の歌を「よみ人知らず」として入れた。
てんぼう政宗
鎌倉末期の刀工。江戸期のフィクションで伝説化される。師匠の技を盗もうとして手を切り落とされた。