〈大意〉
ある人が言う。この絵は、素人の不器用者が描いたのか?
私は答える。ことわざに三月庭訓、公冶長とあるが、これは根性がなくて何事もやり遂げることのできないことを言う。まさしく耳鳥斎の画は根性がなく、海千山千、極上枯れの名品──まるで暮れどきの祇園のように中途半端だ。
「水や空」とは何か? それは捉えどころのないことだ。では、捉えどころのないとは何か? それは、狩野を写さず、土佐を模せず、鳥羽僧正を学ばず、栂尾上人に習わず──つまり唯一無二であり、一流ということだ。
金銀星を祭る夜、太平館中に書す。
印[銅脈之章]

不器用ナル者乎。予ガ曰ク。諺ニ云。三月庭訓公冶長ト。是レ謂フ三根薄フ
不ルヲ二レ遂其終リヲ一也。蓋シ於ル二耳鳥之画ニ一。千二年于山ニ一。千二年海ニ一。極上枯之正物也。豈ニ夫レ暮時ノ祇園。中半ナル者ナラン哉。水也空ト者何ゾ。是レ無キレ所ロレ把ヘ也。無キトハレ所レ把ヘ者何ゾ。是レ不レ寫サ二狩野ヲ一。不レ模セ二土佐ヲ一。不レ學バ二鳥羽僧正ヲ一。不レ習ハ二栂尾ノ上人ヲ一。唯是一流之無本寺也。水也空。是レ所三以為ル二外題ト一。祭ル二金銀星ヲ一夜。書ス二太平館中ニ一。