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お江戸のベストセラー

2020.02.02

絵本えほん みずそら

見る人のヤル気をそぎ落とす! 脱力感MAX! 当惑の役者絵!!

絵本水や空(耳鳥斎)

  画:耳鳥斎(にちょうさい)
 刊行:安永九年(1780)
 版元:八文字屋八左衛門
 底本:国立国会図書館デジタルコレクション絵本水や空

解説

<解説>

江戸時代中期、230年前の役者絵です……当惑してしまいます。

嵐 三五郎/大内多門之助
嵐 三五郎(二代)/大内多門之助
中島三甫右衛門/藤原時平
中島三甫右衛門(二代)/藤原時平

ちなみに、こちらは幕末のころの同じ画題の役者絵です(三代豊国 画)。

二代 嵐三五郎/鴛鴦の精
二代目 嵐三五郎/鴛鴦(おしどり)の精
『古今俳優似顔大全』三代歌川豊国
二代 中島三甫右衛門/藤原時平
二代 中島三甫右衛門/藤原時平
『古今俳優似顔大全』三代歌川豊国

三代豊国の描く役者絵には完成された美しさがありますが、現代的な感覚からすると、最初の絵のほうの破壊的なインパクトから目が離せません。この刺激的な役者絵を描いたのは、大坂の絵師・耳鳥斎にちょうさいです。意外にも、この絵は当時わりと流行ったらしく、耳鳥斎にちょうさいはユニークな戯画作家として、版本や肉筆画など手広く作品を残しています。

かつらかさね
『かつらかさね』
さまざまな年中行事を描く。版木で刷られた印刷本なのに、独特のタッチが味わい深いです。
別世界巻
『別世界巻』
長さ10m以上の肉筆巻物。21の地獄(のようなもの)が描かれています。
関西大学デジタルアーカイブ

本作『絵本 水や空』は、安永九年(1780)に刊行された役者絵本ですが、この年の舞台に出演した43人もの人気役者が、京・大坂・江戸に分かれて登場します。このタイムリーさと役者数の多さは芝居本としても珍しく、旬の役者や演目のネタ本としても当時の芝居ファンを魅了したと思われます。
内容は、いたってシンプルです。歌舞伎のワンシーンを描いた絵に、役名、役者名・俳名が載るだけで、ときどき漢詩のさん(添えがき)が付きます。さんは、ばつ(あとがき)も書いている狂詩作者の銅脈先生どうみゃくせんせいによると思われます。

現代では、この時代の個性派の役者絵作家としては写楽がダントツ有名ですが、どっこい個性で耳鳥斎にちょうさいの右に出る者はいません。芝居愛にあふれたシンプルでユニークな絵からは、当時の舞台の生き生きとした臨場感さえ伝わってきます(想像力を膨らませれば…ですが)
細かいことは気にせず、ただ眺めるだけで脱力する、江戸期のゆる~いキャラ絵が半端なし!

なお、タイトルの「水や空」とは、あとがきで銅脈先生どうみゃくせんせいも書いていますが、なんとも捉えどころのないあやふやなことを意味しています。

※翻刻では、原文にはありませんが、それぞれの舞台の演目名を入れました。すべての演目での安永九年の公演は確認できなかったのですが、どれも当時のホットな演目であることは間違いありません。

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