お江戸のベストセラー

鎌倉かまくら頓多意気とんだいき

9

鎌倉頓多意気 09

鎌倉の切通きりどおしで、頼朝公のおん頭を金兵衛が受け取っている。
下々の安頭の張り子も数多くできあがり、どこから引くとも知れず毎日毎日みかんカゴをつけた馬が行きかうようすは、まるで四谷、新宿のよう。

「みかんカゴの再利用、紀伊国さえもん、ほたけまきえもん。」

「今日は、よい天気じゃ。このような天気が四、五日続けば金兵衛はもうけようが、雨でも降ったらたいへんだ。張り子も相撲と同じで天気しだいじゃ。」
「そう、そう。晴天が十日も続けば、頭はいくらでもできます。」

馬子「ごんざえもんどのの言わっしゃるこんだが、その馬は、よく小便のたれもらす。」

馬子「なに、ヒヒン、ヒヒンもやかましい。前の宿で食ったばかりではないか。」

注釈

紀伊国さえもん、ほたけまきえもん
紀伊国屋文左衛門が、江戸の「ふいご祭」で使うミカンを紀州から船で嵐を乗り越え運んだという伝説。ふいご祭は俗に「ほたけ(火焼)」と呼ばれ、鍛治・鋳物師などが屋根の上からミカンをまいた。