お江戸のベストセラー

三升増鱗祖みますますうろこのはじめ

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三升増鱗祖 06

頼朝公は、切りもぐさの卸しに出なさったとき、行く末の武運を祈ろうと思い立って鶴岡八幡宮へ参拝した。
そこで、政子姫を見初める。

頼朝「なんと美しい。路考ろこうに幸朝、いろはを煎じた “お姫さん” というお薬……ああ、一服飲みたい。」

北条時政の娘、政子姫。鶴岡八幡宮へ参詣して、こっちも頼朝に一目惚れ。

政子市川いちかわ門之助もんのすけの舞台顔にそっくり♡」

姫君の付家老いけすか新五左衛門と腰元のせきやがお供している。
新五左衛門「せきや坊、何をキョロキョロしているのだ。あの若衆を見つめるような眼差しを、おれには向けてくれぬのか。」

注釈

政子姫
北条政子(ほうじょう まさこ)
北条時政の娘で、流人時代からの頼朝の正室。頼朝が亡くなり、その後を継いだ実子の頼家・実朝が暗殺された後も尼将軍として鎌倉幕府を主導したつわもの。
路考・幸朝・いろは
「路考」は、三代目 瀬川菊之丞。
「幸朝」は、初代 尾上民蔵。
「いろは」は、初代 芳沢いろは。
すべて美形の女形として知られる。
市川門之助
二代目。安永期の若手四天王の一人とされる人気役者。
いけすか新五左衛門
「新五左衛門」は、野暮な田舎侍を蔑視した呼び名。