お江戸のベストセラー

花東はなのおえど頼朝公御入よりともこうおんいり

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花東頼朝公御入 04

富士ふじ巻紙まきがみ(富士の巻狩り)

江戸見物は、まず吉原からというのが定番だが、頼朝一行はちょっとヒネって深川へ行き、料理茶屋の梅本で大女郎買いを始めた。
ちょうど月見のときで、岩永の悪ふざけで巻紙を積んで富士山を作らせ、たいこ持ちに紋づくしの揃いを着せて──これで『頼朝公、富士の巻紙』とこじつける。

頼朝「こいつは、おもしろい! 岩永、一生のできだ。」
真田「おれにも、ちっと見せな。このネタの芝居だと、おれにはめったに出番がねえ。」

たいこ持ち
「こうしたところは、野郎のとんび凧だ。ブンブンブン!」
「やじろべえもありやす。」
「モシ、いつまでこうしているのだね。」
「深川はじまって、こんなしんどい座敷をつとめた事がねえ。」

芸者「おやおや、けしからねぇ(すごい)なりだの。」

注釈

料理茶屋
深川は岡場所(私娼街)なので、遊女屋ではなく料理茶屋に芸者をあげて遊んだ。
月見のとき
深川の富岡八幡宮の例祭。8月15日をピークに開催されるので、旧暦では月見も兼ねる。
巻紙
遊女にとって上客をつなぐために手紙はかかせなかったので、遊里には巻紙がたくさんあった。
富士の巻紙
元ネタは「富士の巻狩り」。
征夷大将軍となった頼朝が富士の裾野で行なった軍事演習もかねた大がかりな狩り。
絵の中の紋は、この狩りの最中に起こった大事件「曽我兄弟の仇討ち」を題材にした芝居に登場する武将たちの紋。左から北条時政・工藤祐経・愛甲季隆・岩永左衛門。