お江戸のベストセラー

霞之隅春かすみのくまはるの朝日奈あさひな

4

霞之隅春朝日奈 04

小人島は、もの珍しそうにそこら中を見て回っていたが、突然の大風に吹き飛ばされて裏の井戸に落ちてしまった。
朝比奈が大あわてで助けようとしたが、どうにもしようがない。
すると、手長島が「ここぞ、わが見せ場」と片肌ぬいで井戸の中へ手を突っこみ、やすやすと小人島をつまみ出した。これには、みな感心する。

手長島「それ、ご覧じろ。なったりなったりと三べんかき回しますと、たちまち小人島が出ます。」

女護島「おやおや、けしからぬ(すごい)深い井戸だの。」

女護島が井戸をのぞき込もうとするのを、朝比奈があわてて引き止めた。
朝比奈「これ、べらぼうめ! 井戸をのぞいて、またててなし子をはらもうとする。井戸のふかいより、てめえが湿深しつぶかわ。」

女護島深井戸もその味わいを知らずは、どうでござります。」

注釈

なったりなったりと三べんかき回します
小豆粥を棒で3回かき回して、棒についた米粒で吉凶を占う神事。
井戸をのぞいて
女だけの女護島では神聖な井戸をのぞき込むことで妊娠する。また、南風に裸で当たるという方法もある。
湿深い
好色。
深井戸もその味わいを知らず
ことわざの「食らえどもその味わいを知らず(何事も集中しないと身につかない)」とのシャレ。
「~はどうでござります」は、シャレを言うときの決まり文句。